KALAW COFFEEをたどる100年。第3回|そして今、海を渡る「KALAW COFFEE」
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この連載は、
「カローでは、いつ頃からコーヒーが育てられていたのだろう?」
という小さな疑問から始まりました。
調べていくと、南シャン高原では100年以上前からアラビカコーヒーが育てられていた記録があり、1930年代にはミャンマー産コーヒーがすでに海外へ渡っていたことも分かりました。
それでも長い間、
「KALAW COFFEE」
という産地名は、世界のコーヒー市場でほとんど知られてきませんでした。
そして今。
私たちは、そのカローでコーヒーを作っています。

コーヒーを作るために、カローへ来たわけではない
私が初めてカローを訪れたのは1998年でした。
その後、何度もミャンマーを訪れ、2013年にはこの国へ移住。
2016年、カローでCafe Kalawを始めました。
最初から農園をやろうと考えていたわけではありません。
カローで暮らし、コーヒーを焙煎し、毎日コーヒーと向き合ううちに、少しずつ考えるようになりました。
この土地で、自分たちのコーヒーを作れないだろうか。

そこから、農園づくりが始まりました。
山の斜面に苗木を植え、育てる。
枯れたら植え直す。
実がなるまで待つ。
コーヒーは、すぐに結果が出る作物ではありません。
だからこそ、毎年少しずつ変化していく農園を見るのは面白いものです。

自分たちの農園だけでは、「産地」にはならない
農園を始めてから、もう一つ大切だと感じるようになったことがあります。
それは、
自分たちだけで良いコーヒーを作っても、「KALAW」という産地にはならない。
ということです。
カロー周辺の村には、以前からコーヒーの木を育てている農家があります。
そこで私たちは、自社農園での栽培だけでなく、周辺農家から完熟したコーヒーチェリーを買い付けるようになりました。

良いチェリーを作れば、きちんと買ってもらえる。
品質が上がれば、その価値を評価してもらえる。
そして、
「来年もコーヒーを育てよう」
と思ってもらえる。
そんな循環を少しずつ作っていくことが、KALAW COFFEEという産地そのものを育てることにつながると考えています。
Cafe Kalaw Coffee Factoryで、味をつくる
チェリーは、収穫しただけではコーヒーになりません。
そこから選別し、精製し、乾燥させ、脱穀し、品質を確認する。
この「収穫後」の工程が、味を大きく左右します。
私たちは2023年から本格的な精製に取り組んでいます。

Natural。
Red Honey。
Black Honey。
Washed。
そして、新しい精製方法への挑戦。
同じカローのチェリーでも、精製方法を変えると香りや甘さ、果実感は大きく変わります。

どんな方法がこの土地のコーヒーに合うのか。
どんな味を「カローらしい」と呼べるのか。
その答えは、まだ決まっていません。
毎年試し、飲み比べ、また改善する。
私たち自身も、KALAW COFFEEの可能性を探している途中です。
そして、カローから日本へ
2024年。
私たちは、カローで生産・精製したコーヒー生豆を日本へ本格的に輸出し始めました。
山の中で摘まれた赤いチェリーが、
精製され、
乾燥され、
選別され、
袋に詰められ、
海を越えて日本へ届く。

そして日本各地のロースターやカフェで焙煎され、一杯のコーヒーになります。
カローの山の中にあった一粒が、何千キロも離れた場所で誰かに飲まれている。
今でも、それを不思議に感じることがあります。
私たちは、「最初」ではない
今回、100年以上の歴史を調べてみて改めて感じたことがあります。
私たちは、
カローで最初にコーヒーを作った人たちではありません。
私たちが生まれるずっと前から、この高原にはコーヒーがありました。
誰かが植え、
誰かが育て、
誰かが収穫してきた。
ただ、そのコーヒーが、
「KALAW」という名前とともに世界へ届く機会は、ほとんどありませんでした。
だから、私たちがしたいのは、何もない場所から新しい産地を作ることではありません。
以前からこの土地にあったコーヒーを見つめ直し、
品質を高め、
地域の農家と一緒に育て、
「KALAW COFFEE」という名前とともに外の世界へ届けていく。
それが、今の私たちの仕事なのだと思っています。

まだ世界が知らない、ミャンマー・カローのコーヒー。
私たちは、KALAW COFFEEをこんな言葉で紹介しています。
まだ世界が知らない、ミャンマー・カローのコーヒー。
最初は、
「国際市場ではまだほとんど知られていない産地」
という意味で考えた言葉でした。
でも今回、歴史をたどってみて、その意味が少し変わりました。
新しいから、知られていないのではない。
長い時間そこにありながら、まだ知られていない。
そのことのほうが、ずっと面白い。

KALAW COFFEEは、まだ完成した産地ではありません。
品種も、精製方法も、品質も。
これからさらに試し、改善していくことがたくさんあります。
だからこそ、今のKALAW COFFEEを飲んでもらうことには、少し特別な意味があると思っています。
今飲んでいる一杯が、
10年後、20年後のKALAW COFFEEにつながっていく。
そんな産地の途中経過を、ぜひ一緒に見てもらえたら嬉しいです。
そして100年後、誰かがKALAW COFFEEの歴史を調べたとき、
「この頃から、“KALAW”という名前でコーヒーが世界へ広がっていったんだな」
と思ってもらえたら。
それは、とても面白いことだと思っています。
KALAW COFFEEをたどる100年。― 完 ―