STORY

ミャンマーでコーヒーを作るまで

ミャンマー・シャン州の山あいにある町、カロー。

標高約1,300メートル。涼しい風が吹き、緑の山々に囲まれたこの町で、私たちは2016年から「Cafe Kalaw」を営んできました。

カローは、コーヒー栽培に適した冷涼な気候に恵まれた土地です。
周辺の山間部では、ダヌ族やパラウン族をはじめとする農家によって、以前からコーヒーが育てられてきました。

Cafe Kalawでも開業当初から、近隣の村で育てられたコーヒー豆を直接買い付け、「カローのコーヒー」として店で提供していました。

当時の私たちにとって、コーヒーはまだ「カフェで提供するもの」でした。

それがやがて、私たちの仕事そのものを大きく変えていくことになります。

大きく変わった、ミャンマーでの日常

2020年、世界を襲った新型コロナウイルス。

そして翌2021年、ミャンマーで起きた政変。

それまでカローを訪れていた海外からの旅行者は姿を消し、観光を中心に成り立っていた地域の経済は大きな打撃を受けました。

私たち自身も、旅行や宿泊、カフェを中心に続けてきた仕事のあり方を、根本から考え直さなければならなくなりました。

この先も、この町で仕事を続けていくために。

そして、地域の人たちとともに生きていくために。

 

この土地だからこそできる仕事は何だろう。

そう考えたとき、あらためて目を向けたのが、ずっと身近にあった「コーヒー」でした。

カフェで淹れて提供するだけではなく、自分たちで育てる。

地域の農家からコーヒーチェリーを買い付け、自分たちで精製する。

そして、カローという土地の名前とともに、世界へ届けていく。

こうして、私たちの新しい挑戦が始まりました。

 

 

一粒の種から、農園をつくる

2022年。

私たちはまず、コーヒーの種から苗木を育てることから始めました。

山の畑を開墾し、小さな苗木を一本、また一本と植えていく。

その数は、およそ3万本。

もちろん、最初からすべてがうまくいったわけではありません。

苗が育たなかったり、思ったように根付かなかったり。
土地や気候に合わせて育て方を変えながら、失敗と試行錯誤を繰り返しました。

それでも少しずつ苗は根を張り、山の斜面にコーヒーの木が増えていきました。

何もなかった土地が、少しずつ「コーヒー農園」へと変わっていきました。

 

農園に定植された苗木

 

コーヒーの味は、精製で変わる

そして2023年。

農園づくりと並行して、コーヒーの精製にも本格的に取り組み始めました。

それまでCafe Kalawで使っていたのは、近隣の村から購入した精製済みのコーヒー豆でした。

しかし、豆ごとに品質のばらつきがあり、

「カローのコーヒーは、本当はもっと美味しくできるのではないか」

そんな思いが、次第に強くなっていきました。

そこで私たちは、精製済みの豆を買う方法から、農家が収穫した完熟コーヒーチェリーそのものを直接買い付ける方法へと切り替えました。

チェリーの選別。

果肉除去。

発酵。

乾燥。

そして保管。

一つひとつの工程を、自分たちの手で見直していきました。

同じカローで育ったコーヒーでも、収穫や精製の方法を変えるだけで、驚くほど味わいが変わります。

それまで見えていなかった果実の甘さや、華やかな香り、クリーンな余韻。

試行錯誤の先に、私たちは少しずつ、「カローらしいコーヒー」の可能性を感じるようになりました。

 

コーヒー豆の乾燥施設

 

カローから、日本へ

そして2024年。

自分たちで精製したカロー産コーヒーを、初めて日本へ輸出しました。

ミャンマーの山の中で収穫された一粒のコーヒーチェリーが、

農家の手から私たちの精製所へ渡り、

長い旅を経て海を越え、

日本のロースターやコーヒーを楽しむ人たちのもとへ届く。

私たちにとって、それは単に「コーヒーを輸出した」という出来事ではありませんでした。

カローという小さな産地が、世界とつながった瞬間でした。

 

 

まだ世界が知らない、カローのコーヒー

現在、私たちは自社農園でコーヒーを育てる一方、カロー地域の農家からもコーヒーチェリーを直接買い付け、自社の精製施設で選別・精製・乾燥を行っています。

カローには、標高、気候、土壌など、良質なコーヒーを育てる条件があります。

しかし、高品質なコーヒーを安定して生産し、「産地」として世界へ発信していく取り組みは、まだ始まったばかりです。

だからこそ、私たちはこの土地に大きな可能性を感じています。

農家とともに栽培や収穫について学び、品質を高める。

適正な価格でコーヒーチェリーを継続して買い取る。

精製技術を磨き、品質の高いコーヒーとして、日本をはじめとする国際市場へ届ける。

品質が評価されれば、コーヒーを育てる農家の収入につながる。

収入が安定すれば、また新たにコーヒーを育てようとする人が増える。

そしていつか、

「ミャンマーのコーヒーなら、カロー」

そう言ってもらえる産地になってほしい。

それが、私たちの目指している未来です。

 

一杯のコーヒーから、カローという土地を知ってもらう。

その一杯の向こう側にある、山の風景や、コーヒーを育てる人たちの暮らしまで感じてもらう。

そして、カローの生産者と、日本のロースターやコーヒーを楽しむ人たちをつないでいく。

2022年に植えた、小さな一粒の種から始まった私たちの挑戦は、まだ途中です。

これからもカローの農家とともに、

一杯のコーヒーから、この産地の未来を育てていきます。